課題分析とは

効率の良いスキル(技能)と姿勢・運動の構成要素

課題達成に着目するだけではなく、効率性・多様性を考えること。効率性とは多数ある抗重力的な姿勢・運動パターンの中からエネルギー消費率が小さく、短い時間で課題が正確に遂行できることに加えて、環境や状況に応じて選択的・柔軟に対応できることである。セラピストは対象者の潜在性・可能性の探究を具体化していくことが大切である。

個人・環境・課題の3つの要素を考慮すること

機能改善のための基礎として個人レベルの姿勢・運動制御の改善に焦点をあてている。しかし、状況に応じて環境や課題がクローズアップされる時もあり、個人・環境・課題の3つの要素は常に対象者のニードによって異なる。課題は全体的課題から部分的課題(フェーズ:姿勢・運動の相)に分けて、どの部分的課題に焦点をあてるかを推論し、問題点を抽出していく。

課題が中枢神経系に与える影響について

中枢神経系は数種類の解剖学的および機能的に、精密に連結したシステムとサブシステムから成る。それぞれのシステムの相対的な重要性は、課題・環境・個人と以前の経験によって決められ、堅苦しい機能的階層性ではなく、多様な方向性と適応性がそなわっている。姿勢・運動の調節は絶えず身体内部環境と身体外部環境の情報の入出力が必要であり、反射や反応、予測的姿勢調節を含むフィードフォーワードシステムとフィードバックシステムを機能的に構築していくことで成り立っている。目の前にいる対象者が見せてくれている現象は、あくまでも結果である。「どうしてこのような姿勢・運動パターンをとっているのか?入力された情報はどうだったのか?」ということを考えることは中枢神経系を捉えるうえでは重要となる。
脳は入ってくる感覚情報(皮膚・筋・骨格系からの体性感覚情報や視覚・聴覚などの特殊感覚情報など)を環境や状況に応じて選択的に処理をしている。多種多様な感覚入力に対する求心性情報は必ずしも大脳皮質を経由するとは限らない。身体に何らかの外力が加わり、バランスを要求される状況では、小脳・脳幹・脊髄レベルで情報が処理され即座に姿勢を調節しなければならない場合もあれば、新しい姿勢・運動パターンを学習する場合であれば、大脳皮質などが深く関与する。入ってくる感覚情報を中枢神経系の何処でどのように処理されたかによって姿勢・運動を表出するタイミングが異なる。時間的・空間的に協応して合目的かつ合理的な課題遂行が出来ることはこれらのシステム・サブシステムが柔軟に連携をとっているからである。

健常人の課題遂行時における構成要素(1例として)

例えば、ボールをキャッチする課題を分析・考察してみると・・

神経生理学的視点から

まず、ボールを取るか取らないかを判断・選択しなければならない。過去の記憶と照合して、大脳辺縁系にある海馬や扁桃核が働き、前頭連合野で課題遂行の有無を判断すると同時に基底核における運動のプログラミングを補足運動野・運動前野(6野)へ投射して皮質-橋網様体が働き、一次運動野(4野)から随意運動を開始する前の先行随伴性姿勢調節(pAPA’s)などを補償する。一方ではリアルタイムに足部からの意識に上らない固有感覚情報を脊髄小脳路が求心性情報として小脳へ投射し、小脳から後頭頂皮質へ投射して前庭情報や視覚情報などの多重感覚を統合して立位での身体図式を更新している(適切なAPA’sの発動には身体図式が必要)。
随意運動が開始されると脳幹網様体と前庭システムを中心とした腹内側系(皮質-橋網様体脊髄路・皮質-延髄網様体脊髄路、内・外側前庭脊髄路)が随意運動のバックグランドとして働き、姿勢制御を補償する。リーチやステッピングを行う前のpAPA’s、リーチやステッピングを遂行中のaAPA’sなどの背景となる。
姿勢のセッティングに伴い、抗重力伸展活動をより高めながら背外側系(主には外側皮質脊髄路)で手指などの末梢部の精緻動作が遂行される。

運動構成要素から(二足直立位で立てていることが前提条件)

固有感覚的な支持基底面の変化を捉えながら、足関節は動的な安定性が求められる。特に後方に位置する左下肢は股関節伸展位で足関節が底屈しながら前足部の支持性を得なければ、リーチするための前上方への推進力やオリエンテーションが補償できない。この時の左足部は下腿三頭筋のコーディネーションが必要となり、ヒラメ筋から腓腹筋の内側頭や腓骨筋、小趾外転筋の働きがあってこそ適切な足関節の底屈運動を補償する。それと同時に反対側である右側下肢は支持性を高めるため、足関節、膝関節、股関節へと徐々に伸展していく。右股関節の二関節筋である大腿四頭筋は遠位部が収縮を強めていき、近位部は股関節の伸展を妨げないように遠心性の活動となる。ハムストリングスは、遠位部は遠心性活動となり、近位部は股関節伸展に働くために求心性活動となる。主動作筋と拮抗筋、遠位と近位、上下左右の相反神経支配関係がなければ股関節周囲の選択的な運動性と骨盤周囲の安定性は補償でいない。  コアスタビリティを構成している骨盤底筋の活動は股関節周囲が選択的に活動して成り立っている。股関節の伸展に伴った骨盤の抗重力的なティルティングは脊椎に付着している多裂筋群を活性化し、脊柱の分節的で順序性を持った伸展運動を補償する。腰椎から胸椎へと伸展運動が伝わることで、肩甲帯は動的な安定性を得ることができる。肩甲帯は胸椎の伸展活動と適切なアライメントの確保によって偶力をコントロールできる(肩甲帯の動的なセッティング)。
肩甲帯の動的なセッティングを背景に上腕骨の内・外旋コントロールが補償され、前腕の回内・外コントロールが容易となる。そのうえで手関節の橈背屈と拇指の伸展・外転と示指から小指の伸展が補償されて手の構えが成立する。ボールをキャッチするための手内筋の活性化や手指の選択性が補償される。頭頸部は下肢・体幹が安定しているからこそ、自由に動かすことができ視覚情報を選択的にとらえることができる。これらの構成要素が多関節運動連鎖を補償している。

中枢神経疾患を伴う対象者の課題遂行時の特徴(再考)

課題の結果が最優先され、姿勢コントロールと運動コントロールは非効率となる。意識的・努力的となるため、二重課題(Dual task)が困難な場合がある。本来の感覚・知覚-運動形態はスムーズであり、「動く量・スピード・軌跡、そしてタイミング」は経験のなかで得られたものである(姿勢・運動学習の集大成)。それは、課題に対する選択された自律的な運動である。対象者は系列的に動作遂行が困難なことから何とかしようと意識的になることが少なくない。意識をすればするほど精神的・身体的に高緊張となり脱却できなくなり、運動の切り替えが困難になる。対象者は課題に対するフィーリングとして、「ぎこちない」「できそうで、できない」「時間がかかる」などを訴えることが多い。課題を遂行するにあたっては適切な感覚情報の入力に基づいた姿勢・運動制御が必要であることを対象者は改めて学習することが必要である。

課題分析と臨床推論の流れ

課題の分析をするにあたっては、課題遂行が可能であっても質的に分析していく必要がある。具体的には「できる」が「どのように遂行しているか」ということにも着目し、「できない」ことに関しては「なぜできないか」を熟考する必要がある。正常との差異を分析する際には、視覚的な観察に加えてHands onとHands offを駆使しながら姿勢・運動の構成要素などを評価していく。Hands on で誘導する場合は、タッチの強さ、量、タイミングなどを調整しながら言語指示を入れるのか?入れないのか?何に対して注意をしてもらうのか考えながら行うことが重要である。評価した内容をセラピストの経験やエビデンスなどを絡めて考察をしていき、対象者の潜在能力の有無や予測を立てていく。次に介入していく際には多重感覚入力と姿勢・運動制御を考慮していき、介入後の結果を再度観察(評価)していくことでクリニカルリーズニングを深めていく。
感覚情報の入力をなくして新たな学習は成立しない。介入ポイントとして、筋・骨格系の問題を治療する際は背景となる姿勢・運動制御を考慮し、姿勢・運動制御の問題を治療している時は、筋・骨格系の問題を考えていくこと。いつもとは異なる情報量の変化に対して対象者自身が気づくことやそれに対して姿勢・運動パターン、バランス戦略などを変えられることが、よりアクティブな状況といえる。

タイトルとURLをコピーしました